P.K. Chapter 13. THE RISE OF MAN
2. Is evolution an achievement(進化は達成か?) より
Personal Knowledge Towards a Post-Critical Philosophy
- 作者: Michael Polanyi
- 出版社/メーカー: Univ of Chicago Pr (Tx)
- 発売日: 1974/08/15
- メディア: ペーパーバック
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The stability of a living being has been strikingly compared by W.Ostwald to that of a flame. One speaks today more generally of ‘open systems’, but a simple gas flame contains all that is relevant. It represents a phenomenon of constant shape, fed by a steady inflow of combustible material and releasing a continuous flow of waste products and of the energy produced by combustion. Once a flame has been started, its shape and chemical composition can be varied without extinguishing it. To this extent, its identity is not defined by its physical or chemical topography, but by the operational principles which sustain it. A particular collocation of atoms may accidentally fulfil the conditions for starting a flame, but this accident itself can be defined as such only by its bearing on the system of ordering principles which establishes the possibility of stable flames.
【拙訳】
オストヴァルドは生命と炎の定常性について既に明確に比較している。それは現在「開放系」と一般に呼ばれているものだが、ガスの炎はこの「開放系」の要素を全て備えている現象だ。可燃性物質を絶えず取り込み、燃焼によるエネルギーと廃棄物とを放出し続けながら、ガスの炎はその形を保持するのだ。一旦炎が燃え始めるとその形状と化学的組成は変化するかも知れない。この点で炎の同一性は、物理化学的な位置情報ではなくその形態を保持する作動原理により規定されているのである。ある特定の原子配位が炎が燃え出す条件を偶然満たすことはあるかもしれない。だがその偶然さというもの自体、炎がその形を維持し続けることができる根拠となる秩序化の原理が働く系よって規定されているのである。
オストヴァルドについては前もって2月10日の日記に当該箇所を示しておいたので参照いただきたい(最もオストヴァルドは同じ定常開放系でも生命と炎では違うんだと明記しているが)。
ココでマイケルは、上層が創発する条件たる下層の特別な物的条件が整うという事自体が、創発の場に働いている秩序化の原理と結びつくとはっきりと述べている。ではそのランダムさを規定するとは具体的にどういう意味なのか。
Thus the potentiality of a stable flame bears the same relation to any random fluctuation which ignited it as the ordering principle inherent in the potential energy of biassed dice does to the randomness of Brownian motion, as described in the third imaginary experiment in Chapter 3 of Part One. But we must note the following important difference. The fluctuation which leads to the establishment of an open system does not vanish after the event, as does the Brownian impulse which made the dice tumble into stable positions. The atomic configuration which ignited a flame keeps renewing itself within the flame. It is a fundamental property of open systems, not described before now, that they stabilize any improbable event which serves to elicit them. R.A.Fisher’s observation of the way in which natural selection makes the improbable probable*3 is but a particular application of this theorem. The first beginning of life must have likewise stabilized the highly improbable fluctuation of inanimate matter which initiated life.
【拙訳】
かくて、第1部第3章の架空の実験で示した通り、特定の目が出るように細工されたサイコロのポテンシャル・エネルギー場に当然備わっている秩序化の原理が、ランダムなブラウン運動と結びついてサイコロに特定のパターンの目を出させるのと同じように、炎が持っているポテンシャルな力が炎を燃やすランダムな変動と結びついてその形を維持し続けるのである。しかし、両者には大きな違いがある。サイコロを特定の出目に転がすブラウン運動のランダムさは(外在的で次第に)消失してしまうが、開放系の生成を導く物理化学的なランダムな変動は、開放系が生成された後でもランダムさを維持し続けるのだ。炎を発生させる原子配位は炎の中で自らを更新し続ける。開放系のシステムは自分を生じさせるランダムさを維持し続けるというこの基本的な特性は今まで語られてこなかった。自然選択はランダムな突然変異の発生確率をランダムなまま維持するというロナルド・フィッシャーの見解は、こうした特性の特殊な適用例だ。生命の最初の始まりも、生命を発生させる非生命物質のランダムな変動を維持していたはずなのだ。
触れられている第1部第3章"Order(秩序)"は偶然/秩序/ランダムさについて分析を加えたP.K.白眉の1つだ(『意味と生命』ではツッコミが浅い)。
この箇所のマイケルは明晰でわかりやすい。フィッシャーもきちんと押さえている(今、マイケルは進化論について語っていることを忘れずに)。そして2月9日の読書分と併せ読むと、次のように結論づけることが出来る。
- 生命(定常開放系)発生には、物理化学的物質のランダムな変動を維持することが必要
- ランダムな変動が維持されることで、生命発生に適した偶然の物的配置が起こる(必要条件)
- その偶然の物的配置が、場にそもそも備わっている秩序化の原理を触発し、ある特定の秩序(作動原理)を作動させる(十分条件)
- 結果、生命が/定常開放系が/あらたな作動原理が発生する
「進化が達成か?」に答えを出すには、まだ論を進める必要がある。