暗黙の焦点 別宅。

Michael Polanyiに捧げる研鑽の日々。

Plutarch英雄伝

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細江逸記 注釈 JULIUS CAESAR

ShakespeareのJULIUS CAESARはTribunes(護民官)のFlaviusとMarullusの登場で始まる。Tribunesというのは、貴族(patricians)に対して庶民の権利を保護する為に、紀元前494年に選ばれたのが初めてで、当時は2名定員、後に10名に増員された。

 

Caesarがかつての政敵pompeyの遺子達をSpainのMundaの一戦(B.C.45)にて撃滅してローマに凱旋しくるのを庶民は見世物として楽しもうとするのだが、FlaviusとMarullusはPompeyの余徳を思い、Caesar勢の隆々たるを不安に感じている。

 

もともとShakespeareはこの戯曲を書くのにプルタークカエサル伝を参考にしているが、この凱旋時の事情をカエサル伝は次のように述べている。

After all these things were ended, he(Caesar) was chosen Consul the fourth time, and went into Spain to make war with the sons of Pompey : who were yet but very young, but had notwithstanding raised a marvellous great army together, and showed to have had manhood and courage worthy to command such an army, insomuch as they put Caesar himself in great danger of his life.

"かくてシーザーは第四回目に執政官( コンサル)に選ばれた。そうしてポムペイの息子達を討伐せんがためスペインにはいった。彼らは若年ながらおびただしき軍勢を集め、かつこれを指揮するあっぱれの勇気と機略とを現してシーザーを極度の危険におちいらしめた。"

This was the last war that Caesar made. But the triumph he made into Rome for the same did as much offend the Romans, and more, than anything that ever he had done before; because he had not overcome captains that were strangers, nor barbarous kings, but had destroyed the sons of the noblest man in Rome, whom fortune had overthrown.  

"これがシーザーの戦争の打ち上げであった。彼がこの勝利を祝賀した凱旋式はローマ人をこの上もなく不愉快ならしめた。けだし彼は外国の将軍ないし蛮族の王を克服したのではなく、末路蕭条たりどいえどもローマの最も偉大なる者の子息と一族を殲滅したのであったから。"

プルターク英雄伝 (潮文学ライブラリー)
プルターク英雄伝 (潮文学ライブラリー)
  • 作者:プルターク
  • 発売日: 2000/12/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 プルターク英雄伝の訳者はいろいろいるが、昭和9年鶴見祐輔訳を上記では引用した。

「鶴見訳で読むとおもしろいプルターク英雄伝」でTomokazu Hanafusa氏が推薦しているのが鶴見訳で、実際、とても生き生きとした素晴らしい翻訳の一端がお分かりいただけるかと思う。ちなみに同ページで河野与一訳の岩波文庫版について次のように言及されている。

山本夏彦が『私の岩波物語』に書いているとおり、信じられないほど退屈なもので、英雄伝とは名ばかりの読んでいてすぐ眠気がさす本である。だから、まったく読書には向いていないので、資料としてならともかく、読書用には購入をすすめられない。 

 渡部昇一先生が何冊も翻訳を手がけている哲人エマソン曰く、

われいま、全世界の図書館、火を失して焼けつつありと聞かば、先ず身を躍らして、火焔のなかより、シェークスピア全集と、プラトン全集と、そうしてプルターク英雄伝とを救い出すべし。 

 

鶴見祐輔は言う。

学園に行かず、良師なく、良友なしといえども、一巻のプルタークあらば、反覆愛誦、もって我が人生を築く事を得るのである。