読書:古代文明アンデスと西アジア 神殿と権力の生成
以下、感想。
- 神殿(巨大建築物)構築、文字の使用及び過剰生産物の貯蔵・分配の3つ1セットのシステムが社会に「成長という病」をもたらした、というのが栗本史観。これを始めたのがシュメル人(メソポタミア文明)。
- 神殿は神聖な交易の場で、文字は交易の記録として用いられた。
- 一方、関雄二によれば、アンデス古代文明においては、文字もないし過剰な生産物もない(備蓄遺構が出てこない)。比較的平等な埋葬事情からも王や貴族などの社会階層もない。したがって王権による財の再分配もない。
- そうした社会でありながら、(これが日本調査団ご自慢の文明理解の新概念らしいが)神殿は幾度となく破壊され新たに構築され続けた(神殿更新)。
- おそらくは、緩やかな連合制の国家(?)がアンデス一帯に広く分布していたのであろう。神殿の破壊と新造は、宗教的儀礼としての過剰ー蕩尽行為と理解して良い。社会システムの統合パターンとしては互酬だろう。
- 関雄二及び他の著者も「幻覚剤の使用」とぼかしているが、高地の遺跡群であることから明らかにコカを常用していたのだろう。廃棄物の中には炭化した植物やその灰が多く見られるとのことだが、コカの葉は灰と一緒に口に含むことでその効果が増大する。神殿破壊の饗宴時にはこのコカ(と灰)による精神高揚がセットになって用いられたはずだ。
- 文化人類学が教えるところによれば、ヒトの時間感覚は古来から「ハレ」と「ケ」の繰り返しサイクルである。まずもって自然現象自身が繰り返しである。太陽、月、星座、雨期、乾期、季節、そして植物の成長。全てがサイクルだ。
- 王権などの権力が成立していなくとも、「ハレ(聖)」と「ケ(俗)」のサイクルを人為的に行う神殿更新に不思議はない。アンデス文明においてヒトはコカと破壊により精神高揚・快感を得ていたのだ。その更新サイクルにも何らかの意味があるのだろう。
- つまり、アンデス文明もヒトの社会として共通の原理を有していたことが明らかになった、ということ(に過ぎない)だ。一方で、車輪を発明できなかったのがアンデス文明だし、(シュメルと異なり)無文字であることから「成長の病」からは逃れることができた。
=======目次=======
序章 アンデスと西アジア
揺れ動く古代文明への眼差し 関雄二
第1章 西アジアにおける神殿の出現
新石器時代の公共建造物をめぐって 三宅裕
第3章 古代アンデスにおける神殿の登場と権力の発生 関雄二
- 古代文明と神殿
- 神殿の登場
- 神殿と社会の関係
- 形成期の神殿とその更新
- 神殿更新と祖先崇拝
第4章 神殿・儀礼・廃棄
聖なるモノとゴミとの間 松本雄一
- 儀礼と廃棄
- 饗宴と建築活動
- 廃棄と記憶
- 聖なるモノとゴミとの間
第5章 アンデス文明における神殿と社会の複雑化
ワカ・パルティーダ壁画群の分析から 芝田幸一郎
- 海岸から見る神殿と社会の複雑化
- ワカ・パルティーダ壁画群の発見
- 壁画を読む
- 神殿更新
- 神殿と社会の複雑化
おわりに 関雄二