暗黙の焦点 別宅。

Michael Polanyiに捧げる研鑽の日々。

岸田秀 評

現代思想 号数不明 
岸田秀 明晰にして難解な思想家 
栗本慎一郎 

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岸田秀フロイトを凌いでいるのは、擬物論的、実体論的な物理的因果論で神経症を説明しないところにあるのである。ジュウ(ユダヤ)の理論はシュウによってその濁りを取られたわけだ。 

岸田秀によれば、時間の意識は満足されなかった欲望を媒介として過去が絶えず現在に割り込んでくるために生じるものである。逆に、未来とは修正されるべき過去である。従って、文化による抑圧を知らなければ、時間の感覚はない。幼児期の記憶を形成しない時代はそうなのである。同じく、自己イコール宇宙であれば空間の認識もない。人間が泥酔を求めるのは、自らを不幸と感じる時であり、酔って寝てしまえば、時間もなく倖せである。 

言語も、理論の同じ根幹から説明される。人間存在はそのエスと現実とを画然と遮断されている。そこで、個々の現実に対してはバラバラのイメージを付与して生きざるをえないが、所詮それは想像力が生んだ幻想である。しかし、それでも人間はイメージや意味を介さなければ対象へ向かうことが出来ないので、言語を用いて失われた現実に戻ることを必要とされているのである。従って、言語もまた本来の出口をふさがれた衝動が回り道して表現されたもので、神経症的仕掛けだということになる。 
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