暗黙の焦点 別宅。

Michael Polanyiに捧げる研鑽の日々。

明治の人物誌

久し振りに偉人伝を読んだ(最近流行らないね、伝記というジャンル)。
SF作家星新一が描いた『明治の人物誌』だ。 

明治の人物誌 (新潮文庫)

明治の人物誌 (新潮文庫)

 

 渡部昇一先生がいろいろな著作で『自助論』(1859)を高く評価していて、イギリスで出版された12年後の1871年には日本語に翻訳され(『西国立志編』)一大ベストセラーとなり、人口に膾炙し、このSelf-Help=自分で努力して自分で未来を切り開くという考えが日本の明治維新の精神的礎になったという。

当時の文字が読める人はほぼ全員が読んだのではないかというこの本。売上部数100万部以上。『西国立志編』なかりせば、明治維新は成し遂げられなかったであろうというのだ。確かにそうかも。何か事があれば社会や政府に物事を要求するだけで自助がない国民が一定割合以上いる国では、維新は無理であったろう。

翻訳を手がけたのは中村正直。なかなかの人物だと思われ、簡単な伝記が読みたくてamazonをググったら出てきたのが『明治の人物誌』。全部で10人の人物を描いているが、一番最初が中村正直で、以下ご覧の通り。

当初は同郷の野口英世まで読んで終わりにしようかと思ったが、ぐいぐい引き込まれてあっという間に最後の杉山茂丸まで読み終えてしまった。西洋列強に肩を並べようと必死に努めた日本の実態は、こうした人物達の自助に大きく依存しており、

一国の価値は、つまるところ、それを構成している個人の価値にほかならない。 ジョン・スチュワート・ミル

という『西国立志編』の引用そのものなのであった。ちなみにこの10名、どういう基準で星新一に選ばれたかというと、父親である星一(はじめ)と強い繋がりがあった人物ばかりなのである。著者が描こうとしたのは、10名を通した自分の父親と当時の日本の 立体透視図なのだ。

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良い読書というものは次の読書欲を喚起する。私は新渡戸稲造杉山茂丸の両名に関心が湧き、まずは新渡戸の著書2冊を手に入れた。『武士道』と『衣服哲学講演録』だ。 

武士道 Bushido: The Soul of Japan【日英対訳】 (対訳ニッポン双書)

武士道 Bushido: The Soul of Japan【日英対訳】 (対訳ニッポン双書)

 

後者はamazonに在庫がない。新渡戸稲造によるカーライル「衣装哲学:サーター・レザータス」の講演録だ。新渡戸はサーター・レザータスを原書で30回以上読んでいて、バラバラになった原書のページ毎に白紙を挟み込んで再製本し、メモ書きできるようにしたという。これだ。

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新渡戸稲造 SARTOR RESARTUS

 杉山茂丸は次の著書を「欲しいものリスト」に加えた。楽しみだ。 

百魔

百魔