暗黙の焦点 別宅。

Michael Polanyiに捧げる研鑽の日々。

パンツをはいたサル:増補版

 

 「追補」が12ページ。せっかく先生が出したのだから、何か反応は残しておくべきだろう。

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30年前に書いた本編に修正は必要ない。ただ、パンサルでの分析をベースに21世紀の予測をしておくべきだった、とのこと。具体的には、

  • トランプ大統領誕生を俺は予言してたぞ

と言いたいのだ!それは『パンツをはいたサル』で述べた社会構造や人間の感情構造の理解やそれらについての現代史的理解に基づく(論理的な帰結だ)。

一体どういう理解をすれば(ができれば)、先生のように正確な未来予測ができるのか。ここ数年先生が繰り返し主張していて、全く比喩ではないのだけれど一切まともに取り上げられない、

  • 社会は生命体だ

という視点が重要かつ根源的だ。社会成員たる人間や個人の集団の一つ上のレベルを形成し、(我々個人や企業や政府やマスコミや独裁者が変えようと思っても変えることができない)独自のシステム/原理/生理を持っているものが社会なのである。経済人類学が示す沈黙交易や互酬/再分配/交換もそうしたシステム(関連態様)のひとつだ。

生命体としての社会は、政治制度をも誘導し自分の意思に合致したものを舞台上に押し上げる。その際、大衆に命令を出す手段としてヒトの集団的感情や熱情やエロス、すなわち快感(或いは不快感)に働きかけてくる。エロスとはもともと社会がヒトを一定方向に動かす手段として生まれたし、同じような働きを持つ手段が神話だ。世間に広まる噂話に一定のシステムがあることも同根だ。

(ここまで単純化して説明できるようになったことこそが、30年の成果でもある。)

 ではこうした基礎的な認識を下敷きにすると現代史はどのように理解することが可能となるのか。現代史で力を発揮し世界中に広まった「正義の思想」=マルクス主義共産主義、そこから派生する人道主義民族自決主義、極端な環境保護や反原発、平等、平和、移民無差別受け入れなどは、社会が広めようとしたから広まったものであり、人間が求めたものではなかったということだ。本音とは異なることを強要されているのにそのことに気づけなかったというのである。20世紀はいわば正義と信念が尊重され支配する世紀に「されてしまった」のだ。

従って、そのカウンターである本音の行動主義が力を持つこともまた十分予測可能となる。トランプもプーチンも超特別に有能だったから選挙に勝ったのではない。言葉の正義に対する(カウンターの)本音の行動主義が彼らを勝たせたのである。

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以上が追補の要約となる。村上春樹エルサレム賞のスピーチで「壁(システム)と卵」の暗喩を用いたが、そこでいうシステムにこれほどの射程があるだろうか(いや、ない)。断然「ウチの」栗本の勝ち(?)だ。w

栗本ファンならぜひ原書を入手して(たった12ページを)堪能してほしい。