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暗黙の焦点 別宅。

Michael Polanyiに捧げる研鑽の日々。

P.K. Chapter 13. THE RISE OF MAN

2. Is evolution an achievement(進化は達成か?) より

Personal Knowledge Towards a Post-Critical Philosophy

Personal Knowledge Towards a Post-Critical Philosophy


マイケルが根源について語る折角の箇所なのに、長尾史郎訳は読んでもさっぱりわからない。
個人的知識―脱批判哲学をめざして

個人的知識―脱批判哲学をめざして


本質的に階層をなしているこの世界のビジョンを、マイケルは進化の事実と照らし合わせ整合させようとしている。タイトルの「進化は達成か?」とはそういう意味だ。

My argument will be based on a different conception of life. I shall regard living beings as instances of morphological types and of operational principles subordinated to a centre of individuality and shall affirm at the same time that no types, no operational principles and no individualities can ever be defined in terms of physics and chemistry. From which it follows that the rise of new forms of life -- as instances of new types and of new operational principles centred on new individualities -- is likewise undefinable in terms of physics and chemistry.

【拙訳】

私の議論はネオ・ダーウィニズムとは異なる生命観に基づくものになる。生命は形態形成の具体的な発現であり、個体性の中心に従属した作動原理の具体的な発現だ。そしてこうした形態・作動原理・個体性は、物理化学的な用語で規定することはできない。ということは、新たな形態/新たな個体性の中心に根ざした新たな作動原理として現れる新たな生命の発生もまた、物理化学的な用語では規定不能だということになる。

規定不能だから物理化学の価値が低いなどとマイケルは主張しているわけではない。階層とは単純にそういう(意味論的)論理関係なのだと述べているに過ぎない。

作動原理については少し説明が必要だ。物理化学の用語では規定/決定できない=別の独自ルール(原理)が働いているということだ。それをマイケルは一貫してoperational principleと呼ぶ。時計には時計の、自動車には自動車の作動原理(operational principle)がある。機械にみられるそのような作動原理は物理化学のルールではなく工学的なルールに基づいている。同様に生命にも物理化学のレベルとは異なるルールが働いていて、それが生命体(個体)の中心を形成し(秩序化し)維持しているというのだ。

機械と生命に同等のメタ機構(上下の階層と各階層独自の原理に服する、2重制御のシステム)の構成を見て取る点は、マイケルが神学的/信仰的議論に引用されるやすい理由となっている。機械の作動はある目的に資するように設定されている。時計は正確に時を刻み、自動車は運転され移動する。では生命の、ヒトの目的とは?一体誰が目的を設定し、それに資するように我々の作動を規定しているのか。。。一足飛びにここで議論を進めることはやめよう。最期まで読めばマイケルはきちんと示唆しているのだから(そして栗本先生も)。

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続いてマイケルは、ネオ・ダーウィニズムが示す自然選択すなわち、遺伝子レベルの偶発的で継続的な変化が生命の諸形式をもたらしそれが最終的にヒトを産み出したという考えに疑問を呈す。先んじてその問題意識の1つを明確に言えば、遺伝子の情報が変化したとして、その変化した箇所を適切に読み取るには個体発生/形態形成のプロセスそのものも変化しなければならないが、そのpathが自然選択では見えないじゃないかということだ。遺伝子情報がいくら変わろうとも、その情報をデコードする個体発生のプロセスが変わらない限り新たな生命形態が発現することはありえない。あらゆる情報伝達システムは2重制御のシステムであり、果たして個体発生/形態形成プロセスの変化を進化論の自然選択で説明できるのかとマイケルは問題を設定する。

ではそもそも進化とは何なのだろうか。

To simplify the argument I shall concentrate here on the rise of novel modes of operation, which are as a rule the most striking advantage in the new forms of life arising from evolution. A theory of evolution must explain, then, the rise of novel individuals performing new biotic operations. But the question how instances of new biotic operations come into existence, leads obviously back to the coming into being of life itself from inanimate origins. It is clear that for such an event to take place two things must be assured: (1) Living beings must be possible, i.e. there must exist rational principles, the operation of which can sustain their carriers indefinitely; and (2) favourable conditions must arise for initiating these operations and sustaining them. In this sense I shall acknowledge that the ordering principle which originated life is the potentiality of a stable open system; while the inanimate matter on which life feeds is merely a condition which sustains life, and the accidental configuration of matter from which life had started had merely released the operations of life. And evolution, like life itself, will then be said to have been originated by the action of an ordering principle, an action released by random fluctuations and sustained by fortunate environmental conditions.

【拙訳】

議論を簡単にするため、進化した生物の新たな形態において生存上の最大のアドバンテージとなる、今までにない新たな作動原理の発現に注目しよう。進化論は、その新たな作動を遂行する新たな個体発生を説明しなければならない。どのようにして生物の新たな作動原理が発現するのかという問いはしかし、非生命から生命が発生する地点へと我々を連れ戻すことになる。生命が発生するためには次の2つが必要だ。
(1)生命の土台となる物理化学的諸機構を恒常的に維持する適切な(作動原理からみれば下位の)法則(群)が存在すること。
(2これら下位の法則群を起動し維持するのに有利な条件が整っていること。
この意味で私は、生命を創出するあの秩序化の原理が、安定した開かれたシステムの潜在的可能性であるということを受け入れる。生命が摂取している非生命的な物質というものは生命を維持する条件に過ぎないし、生命を発生させた偶然の物的配置は生命の作動原理をただ触発しただけなのだ。進化とは生命がそうであるように、秩序化の原理が働いた結果、ランダムな変動によって解発され、好適な環境条件によって持続していく活動なのである。

生命の発生について議論をすすめるマイケルであるが、ココだけ読んでも実はわかりづらい。今後13章を読み進めていく中で自ずと明らかになってはいくが、早めに輪郭を掴みたいならば『意味と生命』の270ページ以降もしくは現代思想1986年3月号の「マイケル・ポランニー特集」における第1小論、土屋恵一郎訳による「生命の非還元的な構造」を併せて読むと良い。

(1)(2)が何を語っているかといえば、生命発生の必要条件だ。これが整っていなければ生命は発生に至らず失敗する。生命が依拠している下位層が生命発生には「必要」であることを改めて字義通り述べているのだが、これらはしかし十分条件ではないのである。生命発生を「成功」させるには、潜在的に働いている秩序化の原理を触発しなければならないのだ。安定して上位に開かれた下位層システムが秩序化の原理が働いた「結果」としてあり(必要条件)、その下位システムに依拠しつつ秩序化の原理をキックして新たな作動原理を準備するのがDNAの配列(偶然の物質的配置)なのだ。

まだまだわかりづらい。

以降でこの分析をさらに詳細に詰めていくことになる。