暗黙の焦点 別宅。

Michael Polanyiに捧げる研鑽の日々。

生命記号学

Biosemioticsは1968年にRothschild博士が創始し、1980年代にSebeokが世間に広めた学問だ。Rothschild博士の主著の目次は次の通り。

Creation and Evolution

Creation and Evolution

『創造と進化』

第1部 生命記号学的進化論における内的適応の役割 
1章.意味探求の方法の基礎 
2章.人類の現状 
3章.ルードビッヒ・クラーゲスが生命記号学に与えた影響 
4章.媒介としてのコミュニケーションとその記号体系内部における進化 
5章.コミュニケーションにおける学習のサイクル 
6章.コミュニケーションの起源における対立と補完の力学 
7章.コミュニケーションの起源としての神 
8章.記号体系の重層化における反照のアナロジー 
9章.2倍体細胞とその対話の発達 
10章.内部と外部を媒介するコミュニケーションの潜在的側面と現実的側面 
11章.魂の媒介としての神経系 
12章.知性の仕組みと知的活動の自由 
13章.大脳の優位半球と精神活動の関連 
14章.考えることと話すこと 

15章.ヴァイツゼッカーの著作における生命記号学との類似点 
16章.ヘルムート・プレスナーの哲学的生物学と哲学的人間学 

第2部 記号体系間の内的適応 
17章.サイバネティクスにおける内的適応の例 
18章.フランス構造主義についての生命記号学的な視点 
19章.神経系の超越論的機能と記号構造 
20章.形態の記号的側面と神経節細胞の調整そして小脳に関する見解 
21章.内的適応と覚醒、睡眠、夢、催眠、恍惚:覚醒状態における内的統一 
22章.睡眠について 
23章.遊びにおける内的適応の発現 
24章.感情とその表現 
25章.笑い 
26章.微笑み 
27章.嘆き 

第3部 宗教および歴史における内的適応 
28章.知性の内的適応の目的としての価値 
29章.真なるもの 
30章.聖性:現象学的記述と生命記号学的解釈 
31章.恍惚時の聖なる体験 
32章.贖罪の希求と内的適応の対立 
33章.さまざまな内的適応 
34章.内的適応とギリシア人 
35章.内的適応と東アジアの人々 
36章.ヨガ 
37章.仏教と禅 
38章.キリスト教 
39章.西洋文化史における内的適応 
40章.近代の始まりと原腸胚期の反照 
41章.デカルトと科学的思考の展開 
42章.知性の発達の完成 
43章.意識変容の可能性、左右非対称性 
44章.身体の非対称性 
45章.精神物理学的関係と超心理学 
46章.大脳半球の非対称性 
47章.コミュニケーションの新たな段階を生起する反照(自意識)の重要性 
48章.神の子たる人類の反照に基づく心の変容 
49章.内的適応と超心理学的現象 
50章.エリッヒ・ヤンツの進化論と生命記号論の比較 
51章.人類の逆説的性質と中枢神経系の交差との関係 
52章.対話としての内的適応

この面白そうな内容は別の機会に譲るとして、Biosemioticsには様々なアプーローチがあり、皆パースの記号論を下敷きにしている(Peircean framework)とはいえ、いろいろな研究者がなんとも多様な持論を展開している。こうした多様性は新しい学問であるBiosemioticsの現在において健全で好ましいとも言えるが、もう少し基本的なアプローチの仕方を整理しましょうということで2008年に研究者が集まった。その中にはRothschild博士の研究者として著名なエストニアのKalevi Kullや有名なJesper Hoffmeyerがいたのだが、なんと昨日紹介した生物人類学者のTerrence Deaconもいた!なんてこった。

ということで8つに集約されたそのポイントを簡単に紹介しておこう。

 『生命記号学の論点:理論生物学序説』

  1. 生命記号学における記号過程と非記号過程の区別は、一般の生物学における生命と非生命の区別と同じものだ。
  2. 現在の生物学は記号論的なベースが欠けており科学としては不完全だ。
  3. 生物学が備えている予測可能性は主にその機能的側面に依拠しているのであり、化学的側面がもたらしている訳ではない。
  4. 記号論的生物学と非記号論的生物学の違いはその方法論にある。
  5. 「機能」とは、生命や意味や自律的主体に係る用語である。
  6. 記号論の考え方を生命記号学のツールとして利用するべきだ。
  7. 生物学がもっと正確な定義を得るためには記号過程を中心に据えるべきだ。
  8. 生命は環世界を形作る。